いきなり即興でディベートをするインプロ部です!「ディベートとは何か?|初心者・未経験者向けのディベート講座」の記事を読んでくださりありがとうございます。
さて、ディベートがどんなものかわかったところで、この記事ではディベートのやり方ともいえる試合の進め方。
- 立論スピーチ
- 質疑応答
- 反駁スピーチ
のコツを徹底解説していきます。即興ディベートワークショップで採用しているスタイルですが、どこのディベート団体でも使える方法なので是非とも最後までお付き合い願います。
※今回のディベートは、政策ディベートに絞った内容となっております。
もくじ-ディベートの理論×実践&立論、質疑、反駁の3スピーチ
1 マクロな論理(メリット&デメリット方式)
ディベートの試合はどのように進められていくか?
政策ディベートの試合では、肯定側(否定側)が提示したメリット(デメリット)の大きさを比較して、どちらのほうがより大きいか、重いかで勝敗を決めていきます。
即興ディベートワークショップでは、これにアレンジを加えてマクロの論理と位置付けていますが、一般的にはメリット・デメリット方式とも呼ばれています。
1-1 【理論編】メリット・デメリット方式
●●とは、テーマの「主人公」のことです。
××とは、議論をするべき「行動」のことです。
テーマの主人公の立場になりきり、xxという行動をとることによって得られるメリットと発生するデメリットをシナリオに落とし込んでいきます。
例えば、あなたの会社であるプロジェクトを行うか否かについて会議しているとします。そのプロジェクトが会社に利益をもたらすのであれば、ジャッジは肯定側(推進側)に投票します。そうでなければ、否定側に投票します。
メリットがデメリットを上回っていれば、ジャッジは肯定側に投票し、そうでなければ否定側に投票する、というのが一般的なディベートの流れです。
1-1-1 メリットvsデメリットの比較で試合を進めていく
立論では、肯定側(否定側)は、各々のメリット(デメリット)を唱えていきます。対して、反駁では、そのメリット(デメリット)の中身の攻防戦を通して、最後にどちらのほうがより生き残ったか?で試合の勝敗が決められます。
流れは以下の通りですね。
1-1-2 立論スピーチ(立論×質疑)&反駁スピーチ×2回
立論がひとつあって、立論直後に相手からの質疑があります。お互いの立論スピーチが終わったら反駁が2セットあります。
計8つのパートがありますね。
- 肯定側立論
- 否定側質疑
- 否定側立論
- 肯定側質疑
- 否定側第一反駁
- 肯定側第一反駁
- 否定側第二反駁
- 肯定側第二反駁
ディベートの形式によっては、立論が2回のものもありますが、今回は割愛します。
では、実践編に入りましょう。
1-2 【実践編】テーマ-残業代0法案
さて、早速テーマ(論題)を発表します。時々、国会で議論されている残業代ゼロ法案。ホワイトカラーエグゼンプションです。
■ホワイトカラーエグゼンプションとは?
日本では残業代ゼロ法案と批判されていますが、ホワイトカラーに対して労働基準法の一部を免除(除外)する契約を国が認めるというものです。調べた限りは以下4点の特徴があります。
- 1)労働基準法を改定-一定の条件を満たす労働者に対して労働法の規制緩和・時間規制の適用免除をする
- 2)ひとつの契約形態-雇用主と労働者の契約形態であり、双方が合意してはじめて成り立つ
- 3)対象者となる範囲-知識労働・創造的業務に従属する労働者を対象する。ライン職への適用は認められない
- 4)最低賃金の保証-「年収400万円以上の労働者を対象とする」など最低賃金による縛りがある
2017年の現時点では、労働時間や対象とする労働者が決まらず先送りになっている。
時間管理をなくした働き方を認めるか否か、についてこの法案が上手く行けば、「働き方の多様性」「ワークライフバランス」「生産性の向上」が実現できます。
一方で、本当にこの政策が可決すれば、サラリーマンであればだれもが心配するであろうサービス残業が増えてくることが予想されます。(正確にいうと、残業等概念がなくなる)
メリットとデメリットが極端に出るテーマなので、採用してみました。
1-3 ホワイトカラーエグゼンプションのメリット・デメリットの作り方【まとめ】
実際に、日本の議会でも、「自由な働き方」vs「ブラック企業問題」ついて論議されていますね。ディベートの試合でも同じように議論をしていきます。
では、メリット・デメリットを簡単にまとめていきましょう。
1-3-1 メリット-「自由な働き方ができる」
海外では、ホワイトカラーエグゼンプションの成功例と失敗例が極端に分かれます。
企画、マネジメント、デザイン、プログラマーなど、成果が個人のスキルに依拠して、時間と成果が一致しない職についている人にとっては、ホワイトカラーエグゼンプションがある世界のほうが自由・自立的な働き方ができるといわれています。
1-3-2 デメリット-「ブラック企業の合法化」
もちろん、ホワイトカラーエグゼンプションには、サービス残業の合法化、という弊害も考えられます。
ホワイトカラーエグゼンプションの対象者は既存の労働基準法から除外されるわけですから、長時間労働しても、過労死すらも自己責任になるという考えで試合が進められていきます。
追記!この法案が施行されると、サービス残業や労働時間の長期化が懸念されますが、私たちが想像している問題はすでに起きている!ということも忘れないようにしてください。もちろん、「助長する」という議論も考えられますが、その場合は、どれくらい助長するのか?についても論証していかないといけません。
メリットやデメリットは、現在の事象の延長ではありません。テーマ実行によって引き起る現時点の世界にはない「未来の変化」なのです。その世界を体現させるために想像力をフル発揮しながら、論理で固めていきます。
1-3-3 ホワイトカラーエグゼンプションをディベート視点で考える
ホワイトカラーエグゼンプションの是非については、今でも賛否両論のままです。
ある討論番組で議論をされていましたが、「自由な働き方」「ブラック企業の合法化」の2つの意見が飛び交っているだけで、賛成派・反対派が、自分たちが思っていることを一方的に繰り返し主張しているだけした。
- 各自が主張こそするけれど、その主張が共感できるか否かで終始している。「論」ではない
- もしもホワイトカラーエグゼンプションが実行されたらどのような社会になるか?そのシナリオがない
- 企業の個別な事例から議論を組み立てても、国家や政策単位で論じられる人はない
まとめると、賛成派・反対派は、断片的な意見こそいうものの、最初から最後まで筋立てられた議論を提出できないため、この後の議論がグダグダになってしまいます。
2 立論スピーチ Construction Speech
先ほど、立論は肯定側はメリットを出して、否定側はデメリットを出すスピーチとお伝えしました。
ですが、「自由な働き方が実現します」「ブラック企業が増える危険性があります」とそのままいえばよいのではなく、キチンとどのような経緯で、「自由なはたき方が実現するか」「ブラック企業が増えるか」を一連のシナリオに落とし込んで論じる必要があります。
2-1 立論の作り方-シナリオを作るとは?
- 独自の切り口で
- 詳細な事例もとに
- 具体的に掘り下げる
この3つを意識して、「まずあーなる。なぜなら!」「次にこーなる。なぜなら!」「最後にこーなる。なぜなら」とストーリーを組み立てていきます。
2-1-1 シナリオとは?
「あーなって」「こーなって」「結果、こうなる」など誰が何をして結果どうなる?という一連の流れを創ることですね。そして、最後に、「なぜ、そうなる」という理由付けや根拠も必要になってきます。
例えば、あなたが肯定側で、ホワイトカラーエグゼンプションが実現すると自由な働き方が実現できる!と論じるとしますね。
肯定側立論
ホワイトカラーエグゼンプションが実現すると、9:00~18:00と勤務時間という概念がなくなります。その気になれば、11:00に出社をして、17:00に帰宅することも可能です。もちろん、仕事が終わればですけれど。現在でも、クリエーターやデザイナー、専門職の方などフリーランスで働いている方はそのような働き方をしていますよね。
否定側立論
いや、ホワイトカラーエグゼンプションを実行すると経営者が従業員に対して容赦なく仕事を課すようになり、労働時間が長くなるだけです。なぜなら、残業手当(割増賃金)を支払う必要もなく、時間管理の義務を負わないからだ。果てしなくブラック企業に近い労働環境になるだろう。
と、このような形であーなって、こーなって、結果こうなると伝えます。
2-1-2 シナリオの伝え方
「誰が何をして」「結果どうなる」「なぜ」の3つを意識して下さい。詳しくは下図をご覧ください。
もしも、「ホワイトカラーエグゼンプションを採用したらブラック企業が増えるだろ!」と論じたければ、最低限これくらいの説明が必要です。
もちろん、ここから、「従業員は経営者に従う」「残業手当を支払う必要がないとやりたい放題の状況が生まれる」などの論点に対して更なる理由付けが必要です。
「シナリオで伝える」という言葉がしっくりこなければ、ストーリーでも構いません。誰が何をして結果どうなる?なぜ?の説明を一連の流れで行って下さい。
2-2 肯定側立論の構成
メリットを出すことが肯定側立論の仕事と言いましたが、スピーチが始まっていきなりメリットを主張することはお勧めしません。
例えば、いきなり「ホワイトカラーエグゼンプションを導入するメリットは・・・」と言われても、スッと理解できるはずがありません。
そもそも「ホワイトカラーエグゼンプションとは何か?」「具体的にどんな政策を実行するの?」とみんな思っているので、まずは言葉の定義や政策・法案の中身について定義をします。言葉の定義ですね。
2-2-1 言葉の定義-テーマのキーワードを理解する
通常であれば、「ホワイトカラー」「エグゼンプション」の意味について説明をします。こんな感じです。
■定義の方法
- 「ホワイトカラー」の定義-「知的労働に従事するもので、どれだけ働いたかよりも、どんな成果を上げたかで評価される職種に従事する者と定義します。」
- エグゼンプションの定義-「『除外』「対象外とする」といった意味です。従来の労働基準法の枠から例外を認めて除外することを意味します。」
定義の目的は、議論のすれ違いや解釈のずれをなくすことです。はじめに20秒くらい時間を使って必要な言葉を説明します。言葉の説明が終わったら、今度は具体的のどのような政策を実行するのか具体案を示します。
2-2-2 テーマの具体案-プラン
ホワイトカラーエグゼンプションと一言でいっても、具体的にどんな政策をするのか検討がつかなければ、イメージも湧きません。
そこで、肯定側は「今回の試合ではこのような形でホワイトカラーエグゼンプションを実行します。」と具体的な実行計画を示します。これを「プラン」と呼びます。
■プランの作り方-2009年ごろに行ったモデルディベートより参照
- 最低賃金をいくらに定めるのか?
→対象となる年収(最低賃金)を400万とします - どんな職種を対象にするか?
→頭脳労働に従事しており、自身の裁量で働ける労働者を対象とします - その他例外事項、ブラック企業対策など
→法案を破った経営者に対しては厳しい罰則を与えます
肯定側はテーマの範囲以内であれば自由にプランを設定することができます。例えば、「対象となる年収(最低賃金)を400万とします」とここでは設定していますが、逆に考えると以下の解釈になります。
【例】「年収が400万以下の労働者に対してはホワイトカラーエグゼンプションの適応は認めない」について
このプランを設定した時点で、年収が400万以下の労働者はテーマの対象に該当しなくなり、ブラック企業の餌食にはなるリスクを防げるわけです。(もちろん、ホワイトカラーエグゼンプションの利益を享受できるわけでもありませんが・・・)
但し、自ら設定したプランが可決されるように最後まで守らないといけません。「設定するもの」というより、試合を通して運用していくものという意識で作ってみて下さい。
2-2-2 メリット-プランを採用する「利益」
定義とプランを述べたら、そのプランを実行することによる利益を述べます。図にするとこんな感じになります。
メリットの作り方については、解説をすると長くなるので、ここでは割愛します。
こちらの記事を参照してください。
肯定側立論(メリット)の作り方:リアルでも有効!聴き手を扇動する「肯定側立論」の作り方!
続いて否定側立論の作り方に入りましょう。
2-3 否定側立論の構成
テーマを実行すると、新たな問題(デメリット)が発生するため、何もせずにこのままでいましょう、というのが否定側のスタンスです。否定側の基本的な立場は、「現状維持」です。
例えば、ホワイトカラーエグゼンプションでは、時間規制を取っ払うわけですから、ブラック企業問題は発生するでしょう。そんなことが起きたら大変だから、今回のプランを採用せずに今までどおりで行くべき、と論じます。
では、否定側立論を作るときのポイントについてみていきましょう。
2-3-1 定義×プラン-不備をチェックする
まずは肯定側の定義とプランが適切かどうか?不備があるかないか?を確認してください。
- 言葉の定義-明らかに常識的な範囲から逸脱していないか?
- プラン-今回のテーマを肯定しているのか?矛盾していないか?
例えばホワイトカラーエグゼンプションなのに、「残業時間が40時間超えたら残業手当を支払わなければなりません」ということがプランに明記されていれば、従来のホワイトカラーエグゼンプションの定義と矛盾しています。
そもそも残業規制や時間規制を取り払うかどうかで議論をしているわけですから、「40時間を超えたら残業手当を支払う」と述べている時点で時間規制がある前提で議論をしていることになります。そもそも現状と何ら変わりません。
参考記事:ディベート否定側戦略-トピカリティー!言葉の定義で勝つ!
2-3-2 肯定側のプランから発生するデメリットを述べる
デメリットを出すときに意識するべきことは、「何が起きるか?」「結果、何が問題か?」の2つです。
ホワイトカラーエグゼンプションを例に
- プラン後に何が起きる
「労働時間が長くなる→長時間労働は健康へ悪影響→最悪の場合、鬱・自殺・過労死」 - 結果、何が問題
「日本の法律では、使用者は就労者に対して健康を管理する義務が定められている」
国家が自ら働き過ぎによる健康被害を助長させるような法案を認めるべきではない」
こんな具合ですかね。安倍首相は、自律的な働き方が実現するためブラック企業問題は起きないとか国会で述べていましたが、この制度が現場で正しく運用させる根拠については何一つ述べていませんでしたからね。
(まぁ、そもそも国会答弁はスローガンを発信する場であり、ディベートのような議論をする場ではないですがね。)
それともうひとつチェックするポイントがあります。それは、今回のデメリットは本当にプランによってのみ起きるのだろうか?
2-3-3 デメリットは肯定側のプランに【よってのみ】
否定側の場合、肯定側立論の直後にデメリットを述べなければなりません。どういうことかというと、肯定側が以下のプランを設定してきたとします。
- プラン1 2020年4月よりホワイトカラーエグゼンプションを採用します。
- プラン2 対象となる労働者は、自由出勤・自由退社を認めます
- プラン3 年収400万以上の労働者を対象とします
- プラン4 その他必要な措置があればとります
例えばこのようなプランを肯定側が設定してきたとします。すると、否定側は、このプラン固有から生じるデメリットを述べなければなりません。
さて、何が問題かというと、このテーマで否定側が最もお得意とする「ブラック企業が増加する」というデメリットを打ち出しにくくなります。なぜかというと、ブラック企業の場合、以下の条件が当てはまるからです。
■ブラック企業の条件(独断と偏見)
- 条件1 残業手当を支払わない
- 条件2 給料が恐ろしく低い
- 条件3 拘束時間が異常に長い
ところが、今回のプランだと条件1の「残業手当を支払わない」は成立していますが、他の2つの条件はどうでしょうか?
■条件2と条件3について
- 条件2:「給料が恐ろしく低い」
→最低賃金400万を保証しているため、ヒットしない - 条件3:「拘束時間が異常にが長い」
→自由出勤・自由退社を認めているためヒットしない
このように今回のプランによってのみ生じるデメリットではありません、と肯定側から次の第一反駁で反論されたら、デメリットは水の泡になります。
肯定側のプランからデメリットを出す方法については、「否定側の戦略-肯定側立論直後にデメリットを出す方法」で解説をしています。
2-3 まとめと参考記事
まとめると以下の通りです。
- 肯定側立論の作り方
1)テーマに登場する言葉の定義をする
2)テーマを具体的な実行計画(プラン)に落とし込む
3)今回のプランによって起こるメリットを述べる - 否定側立論の作り方
1)肯定側の定義×プランに不備がないかをチェックする
2)デメリットを出す-「何が起きるか」×「何が問題か」で考える
3)今回のデメリットがプランによってのみ発生するように調整する
こちらの記事でもっと詳しく解説をしています。
■参考記事
では、次。
質疑に入りましょう。
3 質疑 Cross Examination
プレゼンテーションでも発表が終わったら必ず質疑応答の機会が設けられていますよね?
ディベートも同じです。立論直後に必ず相手選手から立論の内容について確認する機会があります。このパートだけは、選手同士が直接質問と応答をする形のコミュニケーションをする形式で行われます。
3-1 質疑、応答、ジャッジ-それぞれの仕事
質疑と応答、そしてジャッジ
- 質疑(側)|不明点を確認する、次の反駁で必要な情報を集める
- 応答(側)|質問されたことに対して立論を参照して答える
- ジャッジ|ジャッジは、聴いているだけ。判定にはカウントしない
質疑のパートで抑えてほしいことは、ジャッジは質疑&応答のやり取りを聴いているだけです。そして、試合の判定にはいっさいカウントしません。なので、この質疑パートで相手の議論を論破したり、自分たちの立論を補強しても全く意味がないということです。
3-1-1 質疑担当者
質疑担当者の仕事は、相手の立論を聞いて理解できなかった箇所や聴き取れなかった点を確認することです。質疑では次の反駁に必要な情報を集めるパートだと思って下さい。
ここで間違って、相手の議論に対して反論をしたりすると、それこそ口けんかや言い負かし合いになります。そして、立論担当者は絶対に立論の不備を認めません。(そんなことをしたら負けるから)
反論はしませんが、上級者となれば誘導尋問をしながら、相手の立論の弱点をあぶり出すことはしますね。
質疑応答のコツ
記事:ディベート実践-質疑・尋問のポイント4つで紹介しています。
興味ある人はどうぞ♪
3-1-2 応答担当者
立論担当者は、相手の質疑担当者から色々と質問攻めされます。
たくさん、痛いところや弱点を徹底的に突っつかれてドキッとするかもしれません。
それでも、ごまかし、無駄に長い説明は極力しないようにしましょう。
立論の弱点を守ろうとする態度が、「私はこの論点を立論で説明していませんでした!」と弱点を認めるようなものです。
結果として、それが開いて再度の次の反駁を強化させる形になります。
3-1-3 ジャッジ
ジャッジは、質疑応答のやり取りは、試合には反映させてはいけないルールになっています。
- 質疑の内容は、次の反駁に反映されると想定のもと、必ずフローに書きとる
- 論理や言葉遣いのミスコミュニケーションが発生している箇所を分析する
ぐらいですね。
>ジャッジの方へ
試合の公表×判定後に選手に対してよい質疑があればほめてあげてください。それでも、質疑の内容を試合に反映させないでください。間違ってこれをやってしまうと、ジャッジスキルを疑われます。
4 反駁スピーチ Rebutual Speech
「反駁」=「反論」と混同して考えている人もいますが、反駁は、必ずしも相手の議論の矛盾点や弱い箇所を攻撃することだけでありません。
相手の反論に対して反論をしたり、お互いの議論の中身を分析・評価していきながら、ジャッジにアピールしていく仕事です。
■3つの反論
- 1)反論(アタック)-肯定側立論(否定側立論)の論点に対して反論を
- 2)再反論(ディフェンス)-相手の反論に反論/反論された箇所を補強
- 3)まとめ×比較(アピール)-まとめながら投票理由や優位性をアピール
では、まずは反論から説明します。先ほどのホワイトカラーエグゼンプションの反論で否定側が肯定側立論に反論している様子をイメージして書きました。
4-1 反論・・・肯定側立論(否定側立論)の論点に反論
ディベートの試合では、相手の立論に対して反論をするのは基本空の基本です。ここでは3種類の反論「ダウト(削る反論)」「キック(切る反論)」「ターン(返す反論)」の3つについて紹介していきます。
- 1)ダウト-削る反論
「残業規制を取り除けば時間に縛られず自由な働き方が実現すると主張していましたが、その理由について全く証明していません。」 - 2)キック-切る反論
「コンサルやIT企業では、裁量労働制が成功していると仰っていましたが、年収500万以下の若手には残業手当は支払われています。(以下、事例をウンタラカンタラ)」 - 3)ターン-返す反論
「経営者(管理者)が時間の管理をする義務がなくなり、仕事を振りやすくなるため、逆に労働時間は長くなると考えるべきです。(以下、事例をウンタラカンタラ)」
反論の基本は、相手の主張そのものではなく、その主張を支えている根拠について反論をするように心がけてください。また、単に弱点を攻撃するだけではなく、真逆の議論や事例を提示するなど積極的な反論をするように心かけてみて下さい。
4-2 再反論・・・相手の反論に反論をする/反論された箇所を補強する
ディベートの試合では、「沈黙は同意のサイン」という恐ろしいルールがあります。要するに、「反論されて何も言い返さなければ認めた!」ってことです。ですから、反論されたら必ず相手の反論に反論をするようにしましょう。
「防ぐ-ブロック」「打返す-カウンター」「避ける-スルー」の3つがあります。4-1-1の3つの反論「ダウト」「キック」「ターン」の反論に再反論してみます。
- 1)ブロック-防ぐ再反論
「残業規制の撤廃されても自律的な働き方が実現するという論点に対して理由がないと反論されたので、今からその理由を述べます。(以下、ウンタラカンタラ)」 - 2)カウンター-打返す再反論
「年収500万円以下の若手には残業手当が支払われていると仰っていましたが、全ての企業が支払っているわけではありません。中には、「仕事は成果だ!」と主張しておきながら、長時間拘束を強いる企業はたくさんあります。例えば、フード系やアパレル系の店長職などが良い例でしょう。」 - 3)スルー-避ける再反論
「確かに、経営者(管理側)は、時間の義務がなくなり、仕事を振りやすくなりますが、一方で労働者も権利を行使して、出社・退勤は自由になるという点も忘れないでください。この論点に関しては何ら否定されていません。」
再反論をするときに意識することは言葉のキャッチボールです。相手の反論を受け取ったときに、どの議論のどの論点に対して反論されたのかを理解して、適切に切り返しましょう。
再反論までできれば、ディベートはできたも同然です。
さて、最後です。試合に勝ちに行くために「アピール」の技術を覚えましょう。
4-3 まとめ×比較・・・まとめながら投票理由や優位性をアピール
反論→再反論と議論の攻防戦を繰り返しているだけではなく、あなたは議論ひとつひとつに決着をつけていかなければなりません。この時に大事なのが、今までの議論を俯瞰して、どの点で自分たちのほうが相手のよりも優れているか、決定的な理由をジャッジに伝えることです。ミクロとマクロの2つで解説をしてきます。
<否定側のまとめ×比較>
- ミクロ-労働時間は長くなるか?
経営者の立場に立って考えたときに、ひとりの労働者に対して過剰なまでの負担を強いることは議論を通して否定されていなかった。経営者であれば、残業手当を支払わなくてよいため、仕事を振りやすくなる。この点も否定されていない。よって、労働時間は長くなると考えるのが妥当である - マクロ-決定的な投票理由
否定側立論で述べてきたように、国家は、労働者に対して心身の健康を保証しなければならない。これは法律でも定められている。今回のホワイトカラーエグゼンプションは、その心身の健康を崩すリスクがある以上、制度として認めるべきではない
<肯定側のまとめ×比較>
- ミクロ-自由な働き方はできるのか?
肯定側-ホワイトカラーエグゼンプション後は、仕事は沢山振られるかもしれないが、仕事の中身で正当に評価してもらるようになる。また、自由出勤・自由退社が認められるため、時間規制よりは自由に働ける。よって、仕事の自由度は時間規制ありよりも増えることは間違いない。 - マクロ-決定的な投票理由
結局のところ、ホワイトカラーエグゼンプションは、労働契約形態のひとつであり、合う合わないは人それぞれである。なので、それは個人が決めるべきこと。多様な働き方のひとつのオプションとして、国はこの制度を認めるべきである
※まだ書き途中です。
5 試合で勝つためのポイント
さて、ここまで立論から反駁スピーチまでの大まかな流れを説明してきました。
ここらは試合に勝つためのポイントについて解説をしていきます。
5-1 論証力の視点
- 論証力・・・・どちらの方が上手に説明できていか?
- 理由付けや根拠をしっかりと作れたかどうか?
- 自分たちの判定理由をアピールできていたか?
など、議論そのものに対する評価です。たとえ優れた主張であっても、その主張を裏付けている中身についての説明がなければ、根拠のない主張として評価されます。言い方は悪いですが、ただのスローガンなのです。
ジャッジは、何が言いたいかは全てわかっています。しかし、説明されていない以上、それは評価の対象としてカウントできないのです。ここがディベートの難しいところかもしれません。
5-2 QAPT・・・・メリット/デメリットの質、量、確率、時間
今度は議論の比較のポイントですね。ディベート本によると、ジャッジは以下4つについて分析をしているといわれています。
- 質・・・・メリット・デメリットの重さ(例:お金vs人命)
- 量・・・・メリット・デメリットの大きさ(国民全員、一部の人)
- 確率・・メリット・デメリットの発生確率(どれだけの確率で発生するか?)
- 時間・・時間軸で見たときのメリット・デメリット(短期的視点、長期視点)
例えば、ホワイトカラーエグゼンプションを採用して、約1000人の労働者が自由な働き方ができることがわかりました。その代償として、年間で100人の方が過労死するかもしれない!という結果になりました。
すると、以下の形で比較検討を行っていきます。
- 1000万人(量)/自由な働き方(質)/わかった(確率)
- 100人(量)/過労死(質)/するかも(確率)
この場合、「1000万人」や「わかった」という量や確率の部分で肯定側のほうが勝ってます。対して、「過労死」という命の天秤を持ちだしたら否定側のほうに分がありそうです。だからこそ、数字をとるか、価値をとるか?が試合判定のポイントになります。
時間軸についても見ていきましょう。
否定側は年間で100人の過労死者が出るかもしれない!という判断を持ってきました。ちょっと大げさかもしれませんが、これを10年単位で考えてみたらどうでしょうか?1000人になります。100年単位なら10000人です。
このように時間軸を上手に使うことで、自分たちの判定してもらえるような議論回しができるようになります。
5-3 ミッション・・・・テーマの主人公の優先事項
- 国家/企業Aは、どうあるべきか?
- そして、何をするべきか?
という視点に立って試合の判定を下す方法です。例えば、今回のホワイトカラーエグゼンプションについても、日本政府はなにをしたいのでしょうか?どんな責任や義務を負っているのでしょうか?という原点に立ち返って判定を下す方法もあります。
ここは是非とも今まで学んだことをフル活用して考えてみて下さい。
6.最後に-ディベートは実践かも・・・
如何立ってでしょうか?
ディベートの進め方についてご理解いただけたでしょうか?ディベートの専門用語をなるべく噛み砕いて平易な表現にして、この記事を書いてみました。
冒頭で30分で理解できる内容と言っていましたが、電車の中でスマフォでスイスイと読めば何となく理解できる内容ですただ、頭では理解できても実際にやってみてできるかできないかは別です。
6-1 前半-動画ディベート
過去に私が撮影した動画ディベートを用意したので、動画を見ながらディベートがどのように進んでいるのかをみんなで学習します。
- 1)聴く・見る-ディベートの流れとスピーチのポイントを理解する
- 2)紙に書く-議論の中身を紙(フローシート)に書いてみる
- 3)質問する-考えたこと・気になったことを“とりあえず”質問してみる
恐らく、ディベートの試合を見ただけだと全体は理解できないので、疑問点・不明点をその場で質問してもらっています。少人数制で行っているためか質問はよく頂きます。手をあげなくても会話形式で気軽に質問できるような感じですね。
6-2 後半-実践ディベート
前半の動画ディベートが終わったら、みんなで試合をします。テーマをその場で決めて、グループワーク、チームに分かれて作戦会議、試合をしてみんなで振り返りを行います。まとめると以下の流れになります。
- 1)グループワーク-全員でアイディアを出しをして、テーマの概要を理解する
- 2)チームで作戦会議-チームに分かれて、立論から反駁までの議論を組み立てる
- 3)試合と振り返り-試合をする→ジャッジの判定・講評を聴いて、みんなで意見交換
初回の講座なので、ガンガンとディベートをするよりかは、ディベートをするまで、ディベートをした後のディスカッションをする方が多いかもしれません。
ここでは理論と実践をコンセプトにディベートの進め方についてお伝えしてきましたが、インプロ部では実践→理論の流れを大事にしています。もっと深く理解したいと思ったらどうぞ!