いきなり、SWOT分析の使い勝手が悪い!なんていうと、教授から怒られるかもしれませんが、本当のことだから暴露します。
経営学の本を一度でも読んだことがある方ならご存知のはず。
絶対に紹介されていますからね。
言葉のリズムがよいのか、スグに覚えます。早速、試してみたくなります。そして、ホワイトボードを目の前に、みんなで色々とアイディアを出します。ところがまとまらない。
最後は、スマートフォンでポチポチと答えを探す始末。
社会人ディベートCafe時代にも、こんなことがあったような。
確か、「KFCはアルコール販売を始めるべきか」というテーマでディベートをしたときにのことです。
みんなでSWOT分析をしてみたものの、全然まとまらない。
そんなわけで、今回はそんな経営学初心者にとってタッチはいいけれど、実践するのが難しいSWOT分析の真実について紹介していきます。
はじめに
0.SWOT分析とは
マクロ環境の変化としての機会(Oppotunity)と脅威(Thread)、自社の資源である強み(Strenghs)と弱み(Weeknesses)を明らかにして、それらを組み合わせて経営戦略を考案します。頭文字をとってSWOTと呼ばれています。
最後にマトリックスを作って4通りの経営戦略を考案するわけです。
- 強み×機会→積極的攻勢:そのままGO
- 強み×脅威→差別化戦略・リソース集中:なんかやる
- 弱み×機会→弱点強化:がんばってみる
- 弱み×脅威→撤退:逃げるが勝ち
企業の戦略立案のみならず個人のキャリアデザインにまで応用できる便利なフレームワークなのです。
でも、やっぱり現実は使い勝手が悪い。みんなで盛り上がるネタですけれど、ひとりでコツコツとSWOT分析をする人はいないでしょう。
小ネタ
SWOTは、英語にするとSWAT:米特殊部隊と同じ発音になるため反対もされたみたいです。戦略論の元ネタは戦争論でもあるからいいんじゃない?と反駁されて、SWOTにまとまったと言われています。
詳しくは、ここから解説します。
1.SWOT分析の弱点を3つ
ここまできて本題です。
なぜ、SWOT分析が使い勝手が悪いと言い切る理由です。
3つあります。
弱点1 強みと弱みの分け方が極端になる
SWOT分析をすると、「強み」と「弱み」を強引に2つ分けてしまいます。「これは強みです。」「これは弱みです」と強引に物事を決め付けなければなりません。
そこで実践してみましょう。ファーストリテーリングのSWOT分析をしてみました。
■モデル企業-ユニクロの強み×弱み
- 強み:大量生産・大量販売する仕組みを持っている
- 弱み:「安価」というイメージから脱却できない
さてどうでしょうか?
ユニクロの戦略は、スケールメリットを最大限活用した薄利多売です。マイケルポーターでいうところの、「コストリーダーシップ戦略」ですね。
コストリーダーシップ戦略(価格優位)-商品を大量に販売することで固定費を最小限にまで抑えて、結果、商品一つひとつの単価を安くする。ユニクロは、高品質低価格なのは、固定費を抑えているから。
一方で、ユニクロの弱みは、大衆商品としてのイメージが定着した点です。グッチやバーバリーのような高級路線には走れないわけです。
今のところは、一人勝ちしていますが、今後はH&MやGAPが同じような低価格戦略を仕掛けてくる可能性があります。もしかしたら、牛丼チェーンみたいな価格競争の泥沼にハマる可能性があります。
まとめると、薄利多売戦略が強みにもなれば弱みにもなるのです。
果たしてユニクロの「安価なイメージ」は、「弱み」になるでしょうか?安価であることが逆に、商品の売り上げにつながっています。また、シェアも業界トップです。安価であること、大衆商品というイメージがあるけれど、イコールそれが弱みと言い消えれる決定的な理由にはならないのです。
ところが、SWOT分析論者は、これを弱みと言い切ります。理由は簡単です。こうでも言わないと、弱みの枠が埋まらないからです。何が言いたいかというと、弱みの枠を埋めることだけに頭がいっぱいで、分析が適当になるのです。
■モデル企業-マクドナルド
今度はマクドナルドの「強み」と弱み」をだしてみましょう。先ほどのユニクロと同じです。
- 強み:世界中、誰もが知っているくらい有名なハンバーガーショップ
- 弱み:不祥事や問題が起きると世界中規模でのイメージダウンが起こる
世界中で誰もが知っている有名店という強みを持っているからこそ、ひとつでも問題が起きればニュースになり、拡散してしまいます。
マクドナルドでチキン系のハンバーグが一気になくなったからね。
タイの工場で、現地スタッフが鶏肉を雑に管理していたこと発覚し、そのニュースが世界中で報じられました。ロッテリア、モスバーガー、タコベル、アービーズではここまでは大きな問題にはならなかったかもしれません。世界規模で店舗を展開しているマクドナルドだからこそ、ここまで問題になったと言えます。
このように一見強みと思えることの中に弱みはたくさん隠れています。
SWOT分析は、時間をかけて、様々な角度からじっくり行えば色々な発見がありますが、それができる人は中々いません。思いつき発言をする人の方が多いのが現実です。
弱点2 無駄に説明をすることが増える
SWOT分析は、強み×弱み、脅威×機会など一度のたくさんの情報に触れることができます。パット見て全体を理解できるのがSWOT分析のよいところでしょう。ところが、列挙した項目がひとつひとつが間違っていないことを立証しなければなりません。そして、これをする人がいません。
その証拠に、下図のSWOT分析の例を参照してみて下さい。
会社名:S社(東京都)
代表取締役:R社長(中国籍)
事業内容:ITのシステム開発、日本企業の対中国進出支援
R社長は中国北京の出身で今年51歳。1992年に来日し、ITシステム、TVショッピングの会社などにシステムエンジニアとして勤務後、2007年独立・起業。日本にシステム会社、中国に開発部隊の子会社、貿易関係の子会社を2社設立。通販システム、TV電話システムなどを開発するも、日本の通販会社のシステム投資の意欲は低く、ITの業績は余り上がっていない。2012年頃から、日本企業の中国進出支援に事業の重点をシフト。静岡県の天然水メーカーなどと有効な関係を構築。ここ2、3年、自社で中国の水関係の展示会に出展すると共に、静岡県の天然水メーカーの中国展示会出展をサポート。バイタリティあり、いろいろな商品にチャレンジするが、見切りも早い。苦労して開発したシステムは、収益に貢献ないものの愛着は深い。
-企業手帳WEB-
参照元:http://sogyotecho.jp/swot/3/
上記の例では、強み、弱み、機会、脅威が合計で17項目列挙されていましたね。
果たして、これが本当に正しいのか?どのような思考プロセスを経てこのように結論付けたのか?とひとつひとつ質問を受けることになります。
- なぜそれが「強み「といえるのですか?
- なぜそれが「弱み」といえるのですか?
- なぜそれが「機会」といえるのですか?
- なぜそれが「脅威」といえるのですか?
理由を聞かれて答えられる人はいないわ。
ビジネス系のセミナーなんてショーみたいな側面もあるわけだし。
弱点3 結論がでない
SWOT分析の目的は、情報を列挙して整理して終わりではありません。最後にどのような戦略を実行に移すか結論を出すことです。SWOT分析はアイディアをたくさん出す点では優れていますが、アイディアがたくさん出すことができます。
ところが、弱点1や2でお伝えしたとおり、次々とアイディアだけがたくさん出てしまい、分析が疎かになり、結論までアプローチできるグループは本当に少ないです。だいたいのグループが、「色々アイディアがでたよね」という結論で終わります。
繰り返しになりますが、SWOT分析の目的はアイディア出しではありません。どのような戦略を実行するべきか結論を出すことです。
2.TOWSを使ってプレゼン力を強化しよう
さて、散々とSWOT分析を批判したところで、今度はちょっと別の切り口からSWOT分析を見ていきましょう。
2-1 TOWSプレゼンとは?
SWOT分析の順番を変えて、ストーリーの構成に当てはめたものです。SWOTは頭文字の通り「強み」「弱み」「機会」「脅威」の順から説明をしていくようにTOWSも「脅威」「機会」「弱み」「強み」の順番から説明をしていきます。
- 脅威→マクロ環境が脅威だらけで打つ手がないことを強調する
- 機会→そんな中でもわずかな光があることを伝える
- 弱み→無数にある相手の選択肢を最小限まで限定させる
- 強み→こちらの望んでいるアクションを強調する
脅威→機会→弱み→強みの順に説明をすることでストーリー性が演出できるようになり、相手に余計なことを考えさせずにこちらのペースでプレゼンテーションをリードすることができます。
2-2 TOWSを使ったプレゼン構成
まず外部環境の脅威を煽ることからスタートします。その中に少ない機会があるとアピールしましょう。弱みをリストアップして、もはや打つ手はないと褒めのかします。あえて選択肢を限定させて、最後の最後に強みを提示してそこから戦略を考案する流れが理想ですね。
3.TOWS分析の事例
具体例があったほうが解りやすいので、用意しました。
3-1 TOWSの実例1|ミネラルウォーター市場のプレゼンをしたとき
ある無名のミネラルウォーター販売会社に対してプレゼンテーションを行ったときのことです。
■商品ではなく会社を売り込む戦略
脅威
ミネラルウォーター市場は、既に飽和しています。ボルビック、エビアンからサントリーとあらゆるメーカーがミネラルウォーターを販売しています。
機会
ところが、ラッキーなことに、日本人は水にお金を払うのは当然だと思っている人が多いです。一昔前のように、水はタダで飲むものだと思っている人は少ないのです。
弱み
御社はミネラルウォーターを主軸商品として置いていますが、調査した結果、市場での認知度は低いといえます。お客様は、水を買うだけなら他社の商品を選ぶでしょう。水を販売するだけだと、シェアはとれません。
強み
御社の社会活動の取り組みは、ジワジワと有名になっています。なので、商品そのもの魅力を伝えるよりも「社会に貢献をする」をコンセプトにして商品ではなく会社そのものを売りこみましょう。
3-2 TOWSの実例2|高齢者にパソコンを販売する戦略を考案したとき
パソコンを販売している個人商店に向けて行ったプレゼンテーションです。
■パソコンスクールで付加価値を高める戦略
脅威
パソコン市場は、既に飽和しています。すでに値下げ競争が始まっているくらいです。
機会
それだけ多くの人がパソコンを使っているということです。
弱み
御社は中古のパソコン販売を手掛けていますが、製品力や価格では大手のソフマップには敵いません。普通に販売するだけだと売れません。
強み
あなたは誰よりもパソコンの操作や設定の方法など本をかけるくらいの専門的な知識をお持ちです。
ここまで説明できると、「パソコンスクールを開いてみてはどうでしょうか?あなたのところで商品を購入したお客さんに対して、パソコンの操作や設定の仕方を教えあげるのです。」と提案することもできるのです。
このようにひとつひとつを順番を変えるだけでプレゼンテーションが完成します。
まとめ
最後の最後にドンデン返しをするようなことを申し上げあげますが、TOWSプレゼンのやり方については、本では紹介されていません。
たまたまディベートをしているときにピンと浮かんだだけです。(笑)
ビジネス系のテーマでディベートをしていたときに、ある参加者の一人がSWOT分析を使って企業分析をしていました。
「このチームは時間通りにできないだろうな。」と予想していたのですが、案の定時間通りにできませんでした。
そのチームは時間内に議論を作成することおろか、SWOT分析の表すらも完成できていません。
その時に思いついたのが、ここで紹介したTOWSプレゼンでした。
SWOT分析は「習うより慣れろ」「何度でもチャレンジすることをお勧めする」と本では説明されていますが、ゆっくりと時間をかけてするものでもないのが正直なところです。
そもそも何のためにSWOT分析をするのか、一度考えていましょう。