さて、今回のテーマは、モチベーションです。日本語に訳すと、「やる気」ですかね。
従業員のモチベーションが向上すれば、組織の生産性がグングンとあがって、結果、業績がUPするとお考えの人がいますが、ホントかよ?と突っ込みたくなります。
でも、皆、社会人として働いているわけだから、
自分のことのように考えてもらえるとうれしいかな。
※学生の方、求職中の方もこれから働くことを想定して、自分のことのように考えてみて下さいね。色々と発見があると思いますよ。
1社目のときは、自分にとって幸せな働き方は何か?
と本当に考えさせられわね。
テイラーの生産性の最大化とメイヨーの人間的経営!あなたはどっちに投票する?より
はじめに
1.モチベーションとは?
先ほどもお伝えしたように、「やる気」のことです。
1-1 モチベーションと生産性の違いは鶏と卵
生産性が高いからやる気があがるのか?それとも、やる気が高いから結果として生産性があがったのかは?正直なところ、誰もわかりません。そもそも、「やる気が高い会社」と「そうでない会社」をデータで表すこともできません。
学生時代は、離職率が高い会社=従業員のモチベーションが低い会社という前提を持っていましたが、リクルートをはじめとした各コンサル会社のように、次のステージにステップアップするためバリバリと働く人もいるわけで...。
ただ、データで示せないからといって、従業員のやる気を向上させることは考える必要がないというのは間違いで、やっぱりやる気がある人たちがたくさんいる会社のほうがショボーンとしている会社よりいいよね、という結論しかつけられませんね。
従業員のやる気を向上させる専門のコンサルティング会社もあるわけで、やる気はやっぱり日々働いていく中で絶対に無視できないファクターのひとつでしょう。
1-2 モチベーションが高い状態とは?
詳しくは、後半のハーズバーグさんの章でお伝えしますが、モチベーションが高いとはこのような状態です。
- 仕事に対して主体的である状態
- 仕事が楽しいと思える状態
- 組織に貢献することを自分の喜びと考えられる状態
このような状態は、間違いなくモチベーションが高いといえるでしょう。逆に、モチベーションが低いと、就業意欲が低下して、従業員が転職をしてしまうからです。会社にとって、ネガティブな理由で従業員から辞められるのは嫌なわけです。
1-3 ちょっと病んでいたアメリカ
事実、60~80年代半ばのアメリカ人たちは、業務意欲が低かったという研究があります。仕事がつまらなければすぐに辞めて、転職を繰り返しているような状態でした。ここら辺は、メイヨー先生のホーソン実験とセットで読むと解りやすいですね。
そこで、どうやったら従業員たちのモチベーション低下を防げるのか?どうやったら今よりも楽しく働いてもらえるのか?と米国の産業界の人達はマズローに相談をしました。
1-4 マズローが案外と役に立たなかった・・・
人の欲求は、生理的欲求から、安全欲求、所属と愛の欲求と承認欲求、これらの欲求が段階的に満たされると、自己実現を目指すというものです。最近では、自己実現欲求の上にも欲求があると議論されていますね。
わかるけれど使えない!
が正直なところ
マズローの5段階欲求は、誰もが感覚で理解できるくらい解りやすいものなのですが、経営者や人材管理の分野でどう生かすの?というのが正直なところ。
おそらくあなたもマズローの欲求5段階説を学んでも、頭で理解できただけで、そこからどう生かしていいかは解らないはず。
2.ハーズバーグ先生の登場
●フレデリック・ハーズバーグ●
臨床心理学者&ユタ大学教授。サーブ大学の心理学部長。人間のモチベーションについて研究をしている人。
ハーバードビジネスレビュー2003年4月より
そこで、マズロー先生に代わって表れたのが、ハーズバーグ先生でした。「欲求は欲求屋に。餅は餅屋に。モチベーションはモチベーション屋に」ってことで大胆にデビュー。
リンクアンドモチベーションという会社はご存知でしょうか?従業員のモチベーションUPを専門としたコンサルティング会社ですね。リクルート系です。
ハーズバーグさんは、元祖リンクアンドモチベーションのような人だと思って下さい。
2-1 就業意欲の低いアメリカ人たち
アメリカ経済が豊かになり、単純労働に耐えられなくなった頃、アメリカでは空前の離職率の高さが目立ちました。
アメリカは転職が当たり前で、転職を繰り返してキャリアアップするのが常識と、日本のメディアではそのように紹介されていますが、ほとんどがイヤになったから辞めるだけです。
経営者サイドの人間にとって、せっかく採用した人材が辞められては、やっぱり損失です。就業意欲が低い状態をなんとか改善しようとあらゆる施策を打ちました。
- 労働環境の改善
- 賃上げ・福利厚生UP
- 教育・ワークショップ
- 個別カウンセリング
など、様々なアプローチをしましたが、一向に改善しませんでした。
「とりあえず、応急処置じゃなくて、根本治療が必要じゃね!」ってことで召喚されたのがハーズバーグでした。
2-2 ハーズバーグの調査:従業員1865人にあるアンケートを配った
ハーズバーグは、複数の企業に訪問して、工場の現場主任、専門職(女性が多かった)、農業指揮官、引退直前の経営者、病院のメンテナンス要員、看護婦、食事運搬人、軍人、エンジニア、科学者、メイド、教師、技術者、組立工、会計士、職長など計1865人を対象にあるアンケートを実施しました。
あなたが仕事を通じて
- 質問A 「満足」を引き起こした要因は何か?
- 質問B 「不満足」を引き起こした要因は何か?
は以下のうちどれか?
・達成(仕事を通じて何かを達成すること)
・承認(仕事をやり遂げて、会社やお客さんから認めてもらうこと)
・仕事そのもの(今の仕事が楽しいか、つまらないか)
・責任(大きな仕事を任されることに喜びを感じられるか?)
・昇進(会社でのランクが上がると、満足を感じるか?)
・成長(仕事をしていて成長実感を味わえるか)
・会社の方針と管理(会社の価値観に共感できるか?)
・上司の存在/関係(上司は好きか嫌いか?上司についていきたいか?)
・労働条件(職場の条件はあなたにとってよいものか、悪いものか?)
・給与(お給料は満足か?)
・同僚との関係(職場の人たちとの関係はどうか?)
・個人の生活(プライベートはどうか?)
私なら、質問Aは、「承認」かな。なんだかんだでお客さんや会社の皆から認めてもらえると嬉しいから。
逆に質問Bは、給与かな。労働時間とは割に合わないわね。
論くん、力也くん、心ちゃんはどう?
逆に、質問Bは、会社の方針と管理。正直、アレコレ指示が多いと疲れる。
たくさん給与がもらえれば満足するし、もらえなければ不満足MAXだぜ!
どんな仕事でも定時ピッタリに帰れればいいわ。
対して、占い師業は、Aの「達成」「仕事そのもの」かな。やっぱり楽しいし。
経営者・マネージャーが失敗したのは、一人ひとりと向き合わず全員が同じと決めつけていた点よね。
さて、アンケートの結果ですが、結構驚きです。
次に進んで下さい。
2-2 アンケートの結果-不満足と満足の原因-
※参照元:ハーバードビジネスレビュー2003年4月
さて、このアンケートの結果から何を読み取ることができるか?
・仕事を通じて何らかの達成感を味わったとき
・人は、組織で認められたときに
・仕事そのものが楽しいと感じたとき
◆不満を感じるとき
・会社の方針と管理が気に食わないとき
・上司の「存在」や「関係」が嫌なとき
・労働条件や給料が悪い場合
ハーズバーグが上手だったところは、満足を感じる要因と不満足を感じる要因を2つに分けたことでした。
- 満足を感じるとき|「やりがい」「承認」「仕事そのもの」一人ひとり価値観から出てくる要因
- 不満を感じるとき|「会社の管理」「上限関係」「労働条件・給与」と外からくる要因
満足の反対は不満足ではなく、満足していない。同じように、不満足の反対は、不満足していない、という名言を残しています。
マザーテレサの「好きの反対は嫌いではなく、無関心」のパクリかもしれませんが...。
満足を上げる要因にはならなかったわね。
給料が低いと満足はしないだろう…?
なんで給料が高いと満足するの???
私が聴きたいのは、その「理由」よ。
とりあえず、本題に行きましょう。
2-3 ハーズバーグの主張-「衛生要因」と「動機づけ要因」
経営者やマネージャーは、「高い給料を与えれば人は満足をして働いてくれるだろう」「会社の人事がフェアであれば納得してくれるだろう」と思い込んでいましたが、これが間違い。テイラーとメイヨーの一件でもわかったように、豊かな大衆はお金では動きません。
ハーズバーグの実験を通して判明したこと
賃金や人事がフェアであることは、
- 従業員の不満足を下げるさせることはできる
- 従業員の満足をあげることまではできない
というものです。
お客は、「欲しい」だけじゃ買わないし、「必要」なだけでは売れない!みたいな。
ひとつはNEEDとして必要なもの。そして、もうひとつはWANTSとして欲しいもの。
まずは、NEEDSの部分に近い、衛生要因から見てほしいの。
2-3-1 衛生要因(hygiene factors)|苦痛を避けようとする欲求
人には誰しも、「苦しいこと」「辛いこと」を避けたい欲求があります。
ハーズバーグは、これを「衛生要因」と呼びました。職場の環境や人間関係が荒れていたり、賃金・待遇が悪いと、言葉に表せないほどの不満を抱きます。
そして、不満がある一定のレベルまで達していくと、誰もがイヤになりやめていきます。あなただってそうだと思います。
そして、今回のアンケートで人が不満を感じる要因こそが、
- 会社の方針と管理が気に食わないとき
- 上司の「存在」や「関係」が嫌なとき
- 労働条件や給料が悪い場合
だったのです。特に、会社の方針と管理は圧倒的でしたね。あえて説明をする必要もないかもしれませんが、会社や上司がまるで親が子供を見張るように管理を徹底したら誰だって嫌になるはずです。
もちろん、会社は従業員を管理しなければならないから、管理そのものが悪ではありません。(私も、管理部で働いているので・・・)しかし、本音を言うと管理をされるのが好きな人はいません。それが今回のアンケートの結果だったのです。
2-3-2 動機付け要因(motivator)|満足を追い求める欲求
結局のところ、人が仕事に対して満足を感じるときは、「何かを達成したい」「認められたい」「今していることが楽しい」というもの。
仕事を通じて心の底からワクワクしている状態です。それ自体がモチベーションを向上させる要因なのです。
仕事に満足を感じる瞬間は、まるで子供がゲームに没頭しているのと同じなのかもしれません。
部活・課外活動に熱中をして、時間を忘れているときの、あの感覚に近いでしょう。
プロジェクトXの世界を思い出して下さい。劣悪な環境でも仲間と切磋琢磨して何かにチャレンジをする姿は、まさに内側から湧き出るモチベーションによるものといってもよいでしょう。
ずっと残りたいとは思わないでしょ・・・。
ハーズバーグの功績
マズローやドラッカーもフアフアしているしね。
日本でも2000年に入ってからは、ずいぶんと働き方が見直されるようになりました。上から仕事を一方的に押し付けるのではなく、従業員一人ひとりの価値観や仕事観を尊重して、一人ひとりにマッチした仕事をさせるべきだと考える企業が増えてきました。「ポジションマッチング」「目標管理制度」「社内FA」などが一例ですね。
会社が積極的に個人のキャリアを開発しよう、企業は個人が仕事を通じて自己実現をするようにサポートをする場のような取り組みが見られます。結果として、これが会社にも、従業員にとっても、そしてお客さんにとっても、winwinの関係になると気付いたからです。
もちろん、これはメリットばかりではありません。デメリットもあります。仕事を通じて将来何をやりたいかを真剣に考えられない人にとっては物凄く生きにくい世の中にもなりました。これを社会を経験していない学生に対しても押し付けるのはどーかと思いますけれどね。
ハーズバーグ理論の限界点
ハーズバーグも、モチベーションや職務満足度を向上させたところで、それが生産性につながるのか?この質問に答えられなかったことです。
実際に、従業員の職務満足度やモチベーションが企業の生産性と相関しているのか、どうかと議論されています。
経営者・マネージャーの本来の目的は、企業の生産性を上げることであり、儲けることです。従業員に楽しくワクワクと働いてもらうことでもありませんからね。
- 「会社はお金を稼ぐところでしょ。楽しく働く必要があるの」
- 「仕事をするのは会社に貢献して対価として給料をもらうところでしょ」
という声が強くなり、モチベーションに対しての議論がされる機会は少なくなりました。
また、最後の経営者・マネージャー、そしてハーズバーグが気付いた皮肉が一つありました。
「モチベーションをどのように上げるか」というテーマで頭を悩ませながらも、色々と方法論を考えて、ひとつひとつを試している本人たちだけがモチベーションが高かった、ということです。
一体誰のためにモチベーション・職務満足度を上げるのか、その方向性すらも見失ってしまい、一時期は、モチベーションの研究はあまりされなくなりました。
GEやIBMのようなテイラー主義をモデルにした組織が再び息を吹き返してきたのもこの辺の時代です。
最後に
「従業員のモチベーションをどのように向上させるか?」という点についてお悩みなら、「彼らと一緒になって同じ仕事を同じようにしてみること」のがいちばんです。
経営者・管理職(マネージャー)なのの人を動かす系ポジションにいると、無駄にモチベーションは上がるのですが、同時にモチベーションが低い人たちの気持ちがわからなくなります。
現場で泥臭い仕事には絶対に耐えられません。
マーケティング職やセミナーを運営している人からも、このような声を頂きますね。
- 「メールに対して反応が返ってこない」
- 「参加者の盛り上がりがイマイチ」
- 「私の言うとおりに行動してくれない」
要するに、モチベーションが低い!色々と原因と解決方法を考えているようですが、
あなたも彼らと同じことを同じようにしてみることです。(Do the things as you say!)
です。
実際に同じ作業をしてみることで、現場サイドの悩みや課題が手に取るように解るからため、自然と部下とのコミュニケーションがとれるようになるんですよね。
部下にとって、自分の悩みや課題が理解されていると感じ、モチベーションの向上(不満足の解消・満足の向上)につながります。
何が言いたいかというと、モチベーションのことで悩んでいるくらいだったら、同じ仕事をしてみればいいんです。
肌感覚で理解することです。
企画のネーミングやシステムの設計、制度のルールを机の上で考えている人は、
是非とも実践して下さい。