コアコンピタンス経営とは、「核となる強み」を意味します。儲かる分野・事業に片っぱしから手を出すのはなく、独自の技術や強みに目を向けて、全社が一丸となってひとつの強みを積極的に活かしていくような「育てる経営」にスポットがあてられるようになりました。
経営学がカチカチ系からイケイケ系になった時代でもあります。
日本企業には、戦略や計画は全くなかったけれど、技術力と勢いだけで世界を制した80年代後半のころ。そんな経営情勢をみて、経営戦略の世界は、大きな転換期を迎えた時代でもありました。リソースベーストビュー経営が流行り出したことのトレンドですね。
リソースベーストビュー経営についてはこちらの記事を参照下さい。
そんな様子を目にしたミシガン大学のC・K・プラハラード教授とロンドンビジネススクールのゲイリー・ハメル教授は、「コアコンピタンス経営」と名付けて、普及させることにしました。さらば!ポーター!会議室にこもって小手先の技術を磨くのではなく、圧倒的な強みを武器に真っ向勝負しようぜ!のごとくケイパビリティー派が猛威をふるうった時代でもありました。
はじめに
コアコンピタンスとは?
- ホンダのエンジン技術
- シャープの薄型液晶技術
- ソニーの小型化技術
などが経営学の教科書では紹介されていますね。他社がマネをしたくてもマネできない競争力の根源となるものをコアコンピタンスというみたいです。
ハメル・プラハラードによると、コアコンピタンスには以下の特徴があると言われています。
- 競合がマネできないような独自の技術、強み
- スキル、ノウハウの組み合わせで構築される中核となる経営資源
- 幅広い事業展開が可能となるが核は同じ
日本語に訳すと「秘伝のタレ」ですかね。誰にも真似をすることができません。秘伝ですから!
マネをしたくてもマネができないのが、ミソです。
コアコンピタンスの秘密がよく解る「アメリカ昔話」
このころの米国の企業は、業界トップの企業をベンチマーク、そこからより優れたものを見つけ出すことでした。もちろん、今は懐かしい米国のビッグ3もトヨタ向上に乗り込んで、日本の生産技術を持って帰って、自分たちの企業に取り込もうと試みました。
何人かの米国の調査員・エグゼクティブたちは、愛知県の某自動車生産工場に見習い工員として派遣されました。そのままアメリカに残っていれば、彼らは、優雅にコーヒーを片手に、机の上に座って資料とにらめっこしているだけの日々でした。ぶくぶくになるまでホットドッグを食べ放題でした。
しかし、残念!ボスの命令です。とはいっても・・・日本の生産技術を学べるのは何かとお得なのでは?どこかでウキウキしていました。
数ヶ月間工場の作業員として、汗だくになり、泥まみれになり、働きました。日本の生産技術を学ぶためにです。
数ヵ月後、米国の本社に戻ってきた調査員・エグゼクティブたちは、まるでライズアップに申し込んできたかのように驚くべき変貌を遂げることができました。
そして、ボスにこう報告しました。
- 「ボス!解りました!ジャパニーズカンパニーの強みが!彼らは、モノづくりを今宵なく愛し、製品に愛情を注ぎます。そして、従業員一人一人が、愛社精神を持ち、世界に誇れるメイドインジャパンを目指して、必死に働きます。仕事にミッションを持っています。だから、わが社の社員にも仕事を愛してもらうようにしましょう。」
- 「ジャパニーズは、仕事が終わったら、そのまま家にトコトコ帰りません。工員たちは、終業後にサービス残業をして、工場に残ります。皆でどうやったらよりよいものが造れるのか?話し合っています。ボス、わが社でも血色力を高めるようにしましょう。」
- 「彼らは、仕事が終わったら、皆で一升瓶を開けて、お酒を飲むんです。おれたちは家族だ!会社は家だ!肩を組んで盛り上がっています。だから、わが社も、仕事が終わったら、皆で残ってどうやったら会社がよくなるかディスカッションをしましょう。そのあとは、皆でビールでも飲みましょう。」
- 「正直、日本の技術は複雑すぎて全く解りませんでしたが、従業員一人一人が力を合わせて世界に誇れる会社を造っていこう!会社が一丸となって未来に進んでいることは解りました。間違いなくビジョナリーカンパニーです。。。」
・・・ボスは翌日従業員たちに解雇通知を出しました。
チャンチャン
その企業「らしさ」もコアコンピタンス
コアコンピタンスを経営視点で考えるのなら、「技術」や「インフラ」など目に見えるものよりも目に見えない要素の方が重要視されています。
- Appleの「世界を変える」に対するこだわり
- FACEBOOKの「実名制」を当たり前としたSNSの文化
- 集英社の「勝利・友情・努力」の鉄板テンプレート
- AKBのいつでも会えるアイドルグループ
これらの要素は、製品や技術としては形になってはいませんが、どうやら企業の中核となる強みとして認識されているわけです。
他社がまねをしたくてもマネができない要素をどれだけ持っているか、強みとして認識しているかです。
味の素のコアコンピタンスとは?
味の素を100年もの間支えてきたのが「アミノ酸関連の技術」なのは有名ですよね?
この「アミノ酸」の技術をコアコンピタンスの視点で見ていくとどうでしょうか?
「中核となる強み」「他分野に応用できる」「顧客から指示される」の3つの条件がそろっています。
その証拠に味の素は、調味料の技術たったひとつで世界に進出をすることに成功しています。
あまり知られていないみたいですが、味の素が創業したのは1909年です。
・・・隠れ100年企業です。
2000年になって、日本の料理や食文化が世界に進出をするようになっていますよね。もしかしたら、日本の文化から生まれたモノの中にコアコンピタンスの原石となるものがたくさん眠っているのではないでしょうか?
一発屋で終わったハメルとプラハラードのコアコンピタンス経営
と、一時期は一世を風靡(ふうび)したケイパビリティ派のコアコンピタンス経営でしたが、本当に花火のように一瞬でした。
というのも・・・「コアは大事だぜー」と叫んでいるだけで、どのように実戦に落とし込んだらよいかまで体系化されず、「自分たちの会社のコアに気付こうぜ!」と訴えるだけの自己啓発セミナーかとしてしまったのです。
一部の学生は熱狂したのですが、「経営で一番大事なのはコアだよね!」とキラキラしているだけで、そこから先の展望を見つけることができませんでした。
こうしてハメルとプラハラードはただの一発屋で終わったのです。