ときは、1980年代。ポーターの理論が廃れ始めたころの時代です。
ファイブフォースや3つの戦略に代表されるように、ポーターは、優れた戦略手法こそ提供しましたが、分析に偏り過ぎたため、実践で使えるような理論にはならなかった点です。
本当の経営戦略とは、会議室に閉じこもっていかに楽をしてカッコよく毎日儲ける方法について議論をするのではなく、プロジェクトXのように戦場に立って挑戦をし続けることなんだーと訴える学派が登場しました。
J・Bバーニー率いるケイパビリティ派の登場です。
はじめに
1.ケイパビリティ派・リソース・ベースト・ビューの時代到来
ポーターの競争戦略が躓き始めた頃に、突然、ある学派の人達はこう言いました。「キミたち!会議室にこもって、雲の上から下界を見渡すのはやめなさい。地上に降りて足元を見なさい!」と真っ向からの反論です。
リソースベーストビュー、コアコンピタンス経営、学習する組織、ケイパビリティー派です。
華々しく活躍する幕開けの90年代でした。
1-1 ポーターの理論が廃れたのが始まり
ポーター率いるポジショニング派は、「儲ける方法=正しい分析」と適切な行動でした。
「競争は、産業構造に支配される」・・・だから、正しい産業を見つけて、適切な戦略を実行すれば、企業は儲かるのだよ!
正しい分析の仕方は、私が教える!何が適切かは自分で判断しろ!です。
- 正しい判断→5フォース
- 適切な行動→3つの戦略
ですかね。
過去のデータを参考に業界構造を分析する投資会社や銀行と同じようなスタイルです。
事実だけは教える!データも提供する。ところが、その先は責任を持たない。あくまで経営者が判断をするところであり、失敗は自己責任である、という立案者にとっては何とも都合のよい戦略です。
1-2 戦略を「立案」と「実行」に分けることの限界点
「頭」と「手足」を分けるべき!です。当時、アメリカを代表する企業、ゼネラルエレクトリック、ゼネラルモーターズ、IBMも同じような考えでした。
1980年代にヒットした、『ポートフォリオマネジメント』『プロダクトライフサイクル』『ポジショニングと3つの戦略』『アンゾフの事業マトリックス』は、戦略を考案する側の一部の人が知っていればよいことであり、現場の人間が求められることはただひとつ。
立案者が作成した計画書にそって手足を動かすこと!
ミンツバーグの戦略サファリという本に戦略立案者と現場の人間の面白い皮肉合戦があります。
要するに、戦略が失敗すれば、立案者達は実行者を責め立てた。「まぬけな君たちが我々の素晴らしい戦略を尊重させくれたのなら・・・」しかし、もしもその間抜けがりどうだったら、こう答えるだろう。「君たちがそれほど利口だというなら、どうして、我わらのようなまぬけにも実行ができるような戦略を策定しなかったのか」。
ミンツバーグ・戦略サファリ
戦略の成功は立案者の功績になり、失敗は現場の責任になります。戦略計画書は完璧であるという前提のもと、完璧な戦略を実行できなかったから戦略は失敗に終わった、現場がダメだった!と結論付ければ全てが丸く収まったわけです。
(まぁ、コンサルタント達が相当口が上手かったからできたことかもしれませんが・・・)
立案者にとって、これほどまで好都合なことはありませんね。
ホンダの小型バイク販売に戦略はあったのか?
米国の経営学会は、キャノンとホンダの戦略を以下のように分析をしていました。ホンダの事例だけ紹介をします。
- ボストンコンサルティング社による当時のホンダの成功要因
ホンダは、大型バイク市場は衰退すると見込んで、小型バイク市場で攻め込む戦略を立案した。オシャレでカジュアルで燃費のよい小型車はアメリカ人にウケるに違いない確信があり、調査も完ぺきだった。事前に計画された戦略を実行に移し、狙い通りの結果を得ることに成功。隙のないポジショニング戦略である。 - 後で判明したこと(インタビューを通して)
当時はアメリカ人が好むような305Cc大型バイクを販売しに行き、相次ぐ故障で売れないことに気づく。社用で使っていた小型バイクが現地の人の目に止まり、それがウケる。はじめは迷ったが、資金繰りに困っていたため泣く泣く販売することに。すると、小型バイクがヒットした。
ホンダの成功要因は計画書に沿った戦略を無駄なく一切のスキもなく実行できるスマートな企業ではありませんでした。
寧ろ逆でした。
- 優れた戦略どころか計画も全くなくゼロであり完全に行き当たりばったりで動いていた
- 想定外の事態に直面しても、偶然をチャンスに結び付けられる力を持っている企業
- 現場の判断で柔軟かつスピーディーに実行することができる組織力であること
優れた戦略は会議室の中で作られるのではなく、現場の中で自然に作られていくものであり創られるものである。本当に必要なのは、ホンダのようにどんな困難に直面をしても活路を切り開けるような組織を作ることではないか?という考え方です。
まとめると、「戦略企画書なんていらねーよ」的な思想が勢いを増しました。
そこら編から、企業の競争力について議論をするときは、企業が本来持っている潜在能力-ケイパビリティ-の研究に目が向けられるようになりました。
ケイパビリティーとは?
企業が持っているユニーク性の高い潜在能力ですね。捉え方は様々ですが、以下のようにまとめることができます。
- 「技術力」「開発力」「認知度・ブランド」と目に見える企業の強み
- 企業の成果を作り上げるために大きく影響している経営資源
- 経営資源の中に隠れているコアコンピタンス(核となる力)
ケイパビリティの定義
企業が全体として持つ組織的な能力。 あるいは、その企業が得意とする組織的な能力。 例としては、スピード、効率性、高品質などが挙げられる。 これらは、オペレーションの柱となる要素であり、競争上の大きな優位性の源泉となりうる。
gms.globis.co.jp/dic/00599.php
ポジショニング派であれば、業界や市場を分析して、トレンドに合わせて、「ユニクロになるか?」「バーバリー・シャネルになるか?」「ターゲットを絞る」か選べ主張します。ところが、ケイパビリティ派は、「企業の外を見るだけじゃダメだ!内側に眠っている経営資源に目を向けろ」と全く逆のことを言います。
「市場や業界を見渡すのではなく、見るべきは組織内部である。」「大切なのは足元に落ちている」ということかもしれません。
ケイパビリティーを見つける4つの質問
自社の経営資源・・・つまりはあなたの会社の「強み」「よいところ」に目を向けて以下の質問をしてみて下さい。JBバーニーは、これを企業能力(ケイパビリティー)の評価方法としてまとめました。
技術、人材、企業文化、価値観、過去の実績、システムでも何でも構いません。とりあえず、自分たちの強みだと思えるものが浮かんだら、それをケイパビリティと定義して、以下4つの質問をします。
- ケイパビリティーの【価値】
競争上の機会を開拓できるだろうか?
全社でどの程度の戦略が実行できるか?
→ライバルと同等なレベル - ケイパビリティーの【希少性】
似たケイパビリティを持っている競合はどれだけいるだろうか?
→短期的な競争優位をもたらす要因になる - ケイパビリティーの【模倣困難性】
競合からマネされないだろうか?パクられないだろうか?
だとしたら、そのコストはどれくらいかかるだろうか?
→持続的競争優位をもたらす要因になる - ケイパビリティを活かす【組織力】
組織が一丸となって強みを「共有」しているか?
潜在能力レベルでケイパビリティを引き出せるか?
→組織の価値が絶対的な領域ができる
上記4つの質問をすべてクリアできたときに、組織が自らの能力をコントロールすることができ、競争上で大きな優位性を発揮できるようになる、という考え方です。
オチ!「強み」がない企業はどうしたらよいのか?
「わが社にはこれといった強みが見つからないのですがどうしたらよいのでしょうか?」
これまでポーター派を崇高してきて、コケまくった経営者たちがバーニー先生に相談をしに行きました。すると、バーニー先生・・・何とも無責任な答えを出しました。
- 経営者A
「わが社には、他社に自慢できる強みが全くありません。」 - バーニー先生
「企業の中にある可能性に目を向けなさい。必ず何かがあるはずじゃ。そして、その“何か”を時間かけて育てていくことじゃよ。」 - 経営者B
「私は、企業の宝はやっぱり人材だと思います。ですが、社員たちが皆ドライすぎて、一致団結してくれないのです。人材はケイパビリティじゃないのでしょうか?」 - バーニー
「じゃあ、人材がケイパビリティだと判断するのは間違いじゃな。だって、強みじゃないんだろう!寧ろ、ドライなのがケイパビリティなのでは?」 - 経営者C
「我が社には自慢できるような強みもなければ、潜在能力もありません。人がドンドンとやめていきます。弱体化をたどる一方です。どうしたらよいのでしょうか?」 - バーニー
「うむ!簡単じゃ!ゼロからやり直せ。まずはポーター先生に相談をしろ!」
と、まぁ、こんな感じでした。(笑)
ケイパビリティ派は、組織の固有能力に気付け、核となる強みを見つけろ!と方程式ではなく、精神論で終わってしまいました。「組織が一丸となってガンバローぜ」ぐらいのノリであり、再現性のあるセオリーを何一つ残せませんでした。
確かにホンダやキャノンの分析は正しかったかのかもしれません。しかし、裏を返すと、ホンダやキャノンは、もともとケイパビリティを持っていたからこそ成立したわけです。
強みや競争力を持っていない企業にとって全く役に立つものではないことが最後の最後に判明したのです。