はじめに
1.根拠・主張・論拠とは?
ディベートの試合で必ず用いる論理の方程式ですね。論理は、「根拠」「主張」「論拠」の3つです。詳しくは、以下の記事で解説をしています。
まずは、どんな議論であっても、必ず、以下の3つのパーツに耳を傾けることです。
- 主張を支えている根拠うは何か?
- 本当に主張したいことは何か?
- 根拠と主張の間にどんな論拠があるか?
この3つをしっかりと意識してください。
では、本題の転職物語を見てみましょう。
2.転職物語-ケーススタディ
ディベートは難しくありませんん。同じことばかり言って、恐縮ですが、
先ほど、面接の話をしたので、転職活動をテーマに根拠と理由の違いをお伝えします。
(この物語は全部フィクションです。キャラクターもエージェント名も全部架空のものです)
D子さんは29歳。都内にあるIT系の中堅企業の広報部の企画担当です。重要なポジションを任され、チームリーダーとして第一線でバリバリと働いています。ところが、D子さん、30を迎える直前にあることに悩みました。「確かに仕事は楽しいけれど、このままでいいのかな?」
「チームリーダーは任されているけれど、管理職ではないし」
「もっと色々なところで自分の可能性を試したいかなー」
・・・・
D子さんは、転職をしようかどうかで悩んでいました。
仕事ではバリバリとリーダーシップを切るのに、プライベートになると、自分で決めるのが苦手なD子さん。
休日に大学時代から仲の良いA美さんに転職をしようかどうか打ち明けました。A美さんは、D子さんが転職をすることを応援してくれました。
そこでA美さんは、D子さんに転職エージェントB社を紹介しました。
「よかったら、転職エージェントB社を使ってみない。
電車のつり革にも広告が貼られているし、ほら、この企業のホームページを見て。
利用者の満足度が84%よ。実は、私の友人もB社を利用したら、転職に成功したの。」
と、エージェントB社を強く勧めてくるA美さん。「(確かに、A美の話を聞く限りでは、良さそうなエージェントだけれど、本当にそうかしら・・・)」あまりにも強くB社をプッシュするから、逆にちょっと不安になったD子さんでした。
以上になります。
さて、エージェントB社を利用するべきかを根拠、主張、根拠の3つで考えていきましょう。
3.根拠、主張、論拠の3つで整理する
先ほどの、A美さんが提案していた「転職エージェントB社がおススメ」といったの理由を、根拠、主張、論拠に分けて考えてみましょう。
まずは、「根拠」から考えてみましょう。
3-1 根拠-主張を支えている理由
A美さんはD子さん対して、「転職エージェントB社がおススメだよ」と主張していました。対して、D子さんは、「なぜ転職エージェントB社がお勧めなの?」と質問をしました。
その質問に答えるため、A美さんがD子さんに3つの根拠を示しました。
- 電車のつり革にも広告が貼られている
- 自社のホームページで満足度が84%と書かれている
- A美さんの友人もB社を利用して、転職に成功した
さて、A美さんが提示したこの3つの根拠を見て、あなたはどう考えたでしょうか?
根拠とは、主張を支えている理由そのものです。つまり、電車に広告がある、という事実が本当かどうかを確かめるのが根拠です。
根拠1-本当に電車に広告があるのか?
言い方は悪いですが、もしかしたらA美さんが、ウソをついているかもしれません。仮に本当のことでも、その広告が貼られていたのが、去年の出来事だとしたらどうでしょう?
その可能性は考えられます。もう別の広告が貼られているかもしれません。
そうすると、「電車に広告が貼られているから」という根拠は崩れるため、「転職エージェントB社がおススメ」という主張も崩れます。
このように、根拠を提示されたら、その根拠が本当かどうかを確かめるのは、ディベートの試合に限らず、誰かに騙されないためにも、絶対に必要な考え方です。
続いて、根拠2、根拠3についても見ていきましょう。
根拠2-満足度84%は果たして本当か?
会社のホームページをみると、「顧客満足度No1」「〇〇市場で売上No1」と大々的にアピールされていますね。要するに、第三者が認めたものだよ、という客観性を担保するための材料です。
アンケート結果をチェックするときのポイントは、結果そのものではなくそのアンケートを作るまでの過程です。
- 対象者の数は?
- 数字の計算方法は?
- 費やしていた期間は
- No1の決め方は?
例えば、東京ディズニーリゾートのリピート率(再来園した数)は95%を超えるといわれていますが、1973年に開園されてから、40年以上も運営されているという事実が無視されています。
昔あるマーケティングの講師が、「ディズニーリゾートのリピート率は95%を超えている。」と数字を出して、みんなを驚かせましたが、これもちょっとした数字のトリック。40年間の通算で95%なのか?10年の間で95%なのかで評価の方法は大きく変わってきます。
何が言いたいかというと、アンケートや統計資料を差し出されても、それは特定の結果であり、全てではありません。計算方法や期間、対象を変えると結果は大きく変わってきます。
もちろん、アンケートや統計資料そのものが意味をなさないわけではありません。なんでもいいから情報や数字を出して説得を試みても、その背景情報について突っ込まれるリスクは必ずついてきます。
根拠3-A美さんの友人も転職エージェントB社を使って転職に成功した
根拠1が「広告」という権威、根拠2が情報・アンケートという情報。根拠3は、「事例」です。ある友人が、転職エージェントB社を使って転職に成功した、という事実です。
問題1-さて、この事例をウソだと疑うか?
「本当にその友人は転職エージェントB社を使って転職に成功したのか?」・・・確かにその通りですが、相手が言っていることを隅から隅まで疑っていたら、キリがありません。A美さんとD子さんの友人関係は崩壊しますからね。
それでも疑いたいのであれば、逆に次の2つをあなたが示すべきです。
- 転職エージェントB社を使っていない
- 実は転職に成功していない
「えー、本当なの?証拠見せてよー」とA美さんに訴えても、A美さんからは、「なんで嘘だと思うの。そっちが証拠見せなさいよ」と言い返されるでしょう。
問題2-事例はどれだけ詳しく説明できるか?
ややディベート寄りの話になりますが、根拠3の場合は、どれだけ事例の中身については踏み込んで質問をしてもよいでしょう。
例えば、A美さんの友人が転職エージェントB社を使って転職に成功した、というを真実と仮定して次のことも確認しましょう。
- その友人が利用したのは転職エージェントB社だけか?
- そもそもその友人のスキルやこれまでのキャリアは?
- 内定をもらえた企業は?同業職種か?キャリアチェンジか?
と、ドンドンと踏み込んだ質問をしてみましょう。
先ほどの、根拠2に似ているかもしれませんが、根拠の背景にある情報を聞き出すのは、議論をする上での常套手段です。
もちろん、議論に限ったことではありません。相手から情報を引き出すトレーニングにもなります。
3-2 主張-相手に訴えたいこと・要求したいこと
さて、根拠が固まったところで、今度は主張を作りましょう。もう一度主張を作りましょう。
はい、もう一度主張を創り直す作業になります。
3-2-1 もう一度主張を作るとは?
先ほどの、主張と根拠を整理してみましょう。こうなりますよね。
- 根拠1-電車のつり革にも広告が貼られている
- 根拠2-自社のホームページで満足度が84%と書かれている
- 根拠3-A美さんの友人もB社を利用して、転職に成功した
もしもあなたがA美さんであれば、D子さんに対して本当に主張したいことは何でしょうか?
と思うかもしれませんが、違います。
A美さんがD子さんに伝えたいことは、「転職エージェントB社がおススメであること」ではありません。
3-2-2 相手に「してほしい」ことを示す
この次に、D子さんに何らかのアクションを取ってほしいから、A美さんは転職エージェントB社を紹介しています。
- 根拠1-電車のつり革にも広告が貼られている
- 根拠2-自社のホームページで満足度が84%と書かれている
- 根拠3-A美さんの友人もB社を利用して、転職に成功した
もしも、A美の主張が、「転職エージェントB社がおススメだよ」だけでは、「ふーん、そうなんだー」で話が終わってしまいます。
「ちょっと、空気読みなさいよ。あたしがおススメって言っているのよ」と思うかもしれませんが、ディベートもリアルもそんなに甘くはありません。
おススメだよ!と紹介したくらいで、人は動きません。これだけで動いているのであれば、みんなディベートをしていますよ。
何が言いたいかというと、事実を示したら、その次にキチンと相手に何をしてほしいのか【要求】するべき、ということです。
極論をいうなら、お店の店員さんの仕事はお客さんに商品の説明をすることではありません。その商品をお客さんに持たせて、レジに並ばせることです。
「よい商品です。だから、今すぐに買ってください!」と指示を出すのです。
何だか、アメリカ的かもしれませんが、ディベートはアメリカからきたものです。
根拠や理由づけをキチンとしないからではありません。根拠や理由に対してキチンと主張をしないからです。
もちろん、これが日本人の美徳だともいわれていますが。
最後のスピーチでは、必ず「この試合は、~の理由で私たちのほうが説得力が高いといえます。
よって、肯定側(否定側)に投票してください!」とジャッジに命令してください。
最後の3秒でこの主張をするために、これまで議論をしてきたわけですから。