さて、マイケルポーター最後のファイブフォースの最後のひとつある売り手の交渉力についてみていきましょう。先ほどは、ファイブ・フォース-買い手の脅威を紹介しました。今回は、買い手とは逆の売り手の交渉力について見ていきましょう。
マイケルポーターはこう言います。
「儲かりたければ、交渉力のある売り手になれ」
日本の市場では、「お客様は神様だ」という言葉が浸透しているように、お客様である「買い手」ほうが圧倒的に立場が強いです。ところが、実際に儲かっている企業をみてみると、販売者側のほうが交渉力を持っていたりする場合もあります。
BtoCの場合は、Appleですね。BtoBであれば、インテルは、交渉力が強い企業の典型例でしょう。良くも悪くも態度が、「いやだったら買わなくていいよ!」なのです。
はじめに
1.売り手の交渉力とは?-5フォースより-
ファイブフォースとは、マイケルポーターの競争要因のひとつです。マイケルポーターを基本から学びたいと思ったら、以下の記事を参照ください。マイケルポーターの競争戦略論については一通り解説をしております。
「競争戦略の世界|マイケルポーターが提唱する業界内に潜む5つの脅威と3つの基本戦略」
今回は、「売り手の競争力」について実際の企業例を交えながら紹介していきます。
2.売り手の競争力が強いとはどんな状態か?
マイケルポーター曰く、以下6つの条件をクリアしていれば売り手の方が買い手よりも圧倒的に競争力が高まるとのことです。
- 1.業界全体が少数の企業によって集約されている
- 2.別の代替品と戦う必要がない
- 3.買い手がそこまで重要な顧客ではない
- 4.買い手にとって、製品・サービスが重要である場合
- 5.製品がしっかりと差別化されている場合
- 6.売り手が統合・買収を示している場合
ホント逆ですね。
どうやったら交渉力の強い売り手になれるだろうか?ということを考えてながら、この先を読んでみてください。
2-1.業界全体が少数の企業によって集約されている
業界全体を見渡したときに、同業者が多いか多くないかをチェックしてみて下さい。同業者が多ければ、顧客は選択肢が増えるため、必然的に「買い手」の交渉力が強まります。
2-1-1 モバイル業界-本社vs代理店
機種の契約先(キャリア)は、Docomo、au、Softbankの3社のみです。今後は、ソニーなんかが参入してきそうですが、少なくとも現段階では少数の売り手で集約されている業界といえるでしょう。
一方で、販売代理店は、至る所にあります。この場合、代理店がよほどの販売力を持っていない限りは、本社のほうが交渉力は強くなります。絶対的に本社が儲かる仕組みになっているのが、このキャリア販売ビジネスのモデルです。
2-1-2 外食産業-フランチャイズvs個人経営…そして・・・
対して、外食産業は、多数の売り手によって集約されている業界といえるでしょう。フランチャイズから個人経営まで食品の数だけお店があります。お客はお店を選び放題であるため、1円でも安いお店を選びます。個人で牛丼屋しても、コスト面では吉野家、松屋、すき屋には規模では勝てません。
真っ向勝負をしたら、個人経営は大手に勝てないため、独自性の演出、大手には扱えないメニューを用意する、店主の権限でお客様にサービスをする、などして大手にはできない戦略を選びます。
なお、外食産業で成功している店主の中には、本業以外に自分たちのレシピを提供する、同業者に対してコンサルティングをするなどして、別の収入源を確保しているケースも少なくありません。知人で一人そんな人がいました。
2-1-3 ゲーム業界-ハードとソフト
次に、1990年代のゲーム業界の動向です。スーパーファミコンやプレイステイションなどのハードウェアを開発している業界は、少数に集約されていました。(ニンテンドー、ソニー、セガ、SNK)
対して、ゲームソフトを開発している会社は数え切れないほど存在していました。この点からみると、ハードウェア企業のほうがソフトウェア企業よりも売り手の交渉力が強いといえます。
2-1-4 ファイナルファンタジーの影響力
1997年にファイナルファンタジー7が発売されたときのエピソードなのですが、当時はソニーの担当者がスクウェアの企画部に「是非とも、次回作はスーパーファミコンではなく、プレイステイションで扱ってほしい」と頭を下げたという有名な話があります。
セガサターンや任天堂の場合、ハードとソフトを両方を販売出来たのに対して、ソニーはハードウェアオンリーです。つまり、どんなことをしてでも大量にプレイステーションを販売しなければならない事情があったのでしょう。
また、闘ゲーム好きな人はご存知かもしれませんが、プレイステーションのコントローラーは格闘ゲームには不向き。
ファイルファンタジーほどのブランド力があれば、ソフトウェア企業でも、ハードウェア企業に対して強い交渉力を持つということです。
2-2.別の代替品と戦う必要がない
先ほどのゲーム会社のソフトとハードの続きです。確かに、ハードを開発している企業の方が売り手に対して強い交渉力を持つことができるのですが、別の代替品が存在したら話は別です。
2-2-1 ゲーム産業は下火なのか
例えば、ソフトウェア企業が完全にハードウェア企業1社に依存しているわけではありません。ゲームセンターやレジャーパークで自社のソフトを扱ってもらうこともできます。最近のトレンドであれば、appleやandroidで自社の製品・サービスを扱ってもらうこともできます。
他に代替の機能を満たすサービスや製品があることも考えいないといけません。ここら辺が上手なのが外食産業です。
2-2-3 外食産業は付加価値を提供するのが生き残る道
近年の消費動向をみると、外食産業は同じ外食産業ではなく、コンビニやデパ地下などに顧客を奪われています。わざわざ店に入って座って注文しなくても、すぐに食べたいものが買うとことができる点では、コンビニやデパ地下のほうが交渉力の方が強くなるのです。
例えばあなたがフカヒレ、イクラ、フグ(なんでもいいです)・・・を食べたいとします。ひと昔前なら、専門店に足を運ばなければ食べられませんでした。ところが、今では大抵の食材はデパ地下やコンビニで買うことができます。サイゼリアやガストの料理はコンビニでも食べられますから。
このように考えると、サイゼリアやガストを苦しめているのは、コンビニなのかもしれません。嗚呼
2-2-4 スターバックスが強い理由
一方で、同業種や他の業態と同じ土俵で勝負をせずに一人勝ちをているコーヒーショップが存在します。
スターバックスです。
店内をおしゃれにしたり、独自の雰囲気・世界観を演出して、お客さんからは自分たちのお店を選んでもらえています。
- 落ち着いた空間を提供できるコーヒーショップ
- 他と比べて品質の良いコーヒー・ドリンクを提供できる
ですかね。自分たちは、コーヒーを提供するのではなく、落ち着いた空間でリラックスができる空間を提供することに特化しています。コンビニにはコレができません。
さて、次に行きましょう。
2-3.買い手がそこまで重要な顧客ではない
「別に買いたくなければ買わなくていいよ!」と強気なスタンスをとれるか、どうかです。
一人でも多くの顧客に購入してもらいたいし、サービスを利用してもらいたいのが本音です。ところが、必要以上に手間暇時間をかけてまで、せっせと営業をしたり、販売をしません。企業のブランド力や商品のイメージだけで勝手に売れていってしまうからです。
バーバリーやシャネルのような一部のロイヤルカスタマーがいて、その人たちだけが購入してくれれば経営が成り立つのであれば、そのビジネスは強いかもしれません。
銀行も案外とそうかもしれません。預けている額によって対応が大きく変わってきますからね。
自身の経験交じりでお話をすると、ドンキーホーテのビジネスモデルが、それに近いかもしれません。良い意味でドンキーホーテは、お客さんに対して手厚いサービスをしません。
「勝手に物色して楽しんで」という状態なのです。そこで衝動買いをしてくれれば儲けものという感じでしょうか?
決してドンキーホーテの商品が特別安いわけではありません。ユニクロのほうがはるかに安いです。店員の、サービスが特別よいわけでもありません。
それでも売れているのか、あっちこっちに店舗がありますよね。
2-4.(お客さんにとって)製品・サービスが重要である場合
お客さんにとって、そのサービスがどうしても必要なものであれば、売り手としては強い交渉力を持つことができるでしょう。
ポイントは日常的に利用するものですね。
- 「いくらお金を払ってでも欲しい!」
- 「どうしても手に入れたい!」
- 「サービスを利用したい!」
と思ってもらえるような商品があれば、売り手の交渉力は一気に上がるでしょう。
2-4-1 インフラ産業が強い理由
この点、電気、ガス、水道は圧倒的に競争力を持つことができます。生活必需う品であればある程、売り手は買い手の足元を見ることができるのです。
マズローさんの5つの欲求階層を例に紹介すると、ピラミッドの1番下にある、「生理的欲求」に近い商品であるほど、売り手は強い販売力を持つことができます。
まぁ、このような産業を思い浮かべると、国家が管理をしていますがね。また、同業他社も多いです。
今回の電力自由化でどう変わるのでしょうか?
2-4-2 アイドルの影響力
一方で、先ほどのアイドルビジネスは、圧倒的に売り手が有利になるケースが多いです。
例えば嵐コンサートチケットです。明らかにジャニーズ側のほうが交渉力がありますよね?AKBのグッツも同じです。ファンからしたら、お目当てのアイドルのグッツは何でも欲しいわけです。ファンさえできれば、販売側は強い交渉力を持つことができて、本当にやりたい放題です。
もちりん、あまりエゲツナイことばかり繰り返すと、お客さんが逃げていきます。
そこらへんはさじ加減をしているのでしょうかね?
2-5.製品がしっかりと差別化されている場合
しっかり差別化されている状態とは、代わりになる取引先がいないから、仕方なくその会社を選ぶ、という状態ですね。
具体例としてAppleを紹介すれば、一発なのですがそろそろ飽きてきたと思うので、別の会社を紹介します。
Adobe社です。Dreamweaver、Photoshop、Illustratorを提供しているホームページソフト販売会社ですね。

adobe.com
Adobeのソフトは、決して安くはありません。月額利用料が5000円を超えます。年間にすると60,000円を超える計算になります。スマートフォンと価格はほぼ一緒です。
それでも売れます。個人にも法人にもです。今回は個人に焦点を当てて話をしていきましょう。
企業向けのホームページを制作を製作する場合は、お客さんからAdobeのソフトを使って製作をすることが求められるため、やっぱり使えるようにならないといけません。
求人票にも、Adobeのデザインソフトが使えることを採用必須条件とする、と書かれていたりしますからね。
本当にウェブ系のお仕事をしたい人なら、身銭を切っても購入しなければなりません。
このように、お客さんが他の商品を選べない状態を作り上げることができれば、競争では有利になることができます。
2-6.統合・買収を示している場合
ややマニアックな話ですが、企業が統合買収を狙っている場合は、売り手の立場の方が強くなります。
先ほど、買い手にとっての脅威は、買収をほめのかされたとき!とお伝えしましたが、売り手視点で考えるのなら、いつでも合併買収できる状態は最強だと、ポーターは指摘していました。